もしも、にわとりの卵の殻がチタンくらい硬かったら


もしも、にわとりの卵の殻がチタンくらい硬かったら。

朝、冷蔵庫から卵を取り出して、いつものようにフライパンのふちにコン、とぶつける。

割れない。

もう一度ぶつける。

やっぱり割れない。

力いっぱいたたいたら、卵より先にフライパンのほうが傷つきそうだ。

この世界では、卵は「割れやすい食べ物」ではない。

かなり丈夫なものとして扱われている。

目玉焼きを作るだけでも、専用の道具が必要になる。包丁では殻のほうが強いので、金属を切るような道具で殻に切れ目を入れる。

料理番組でも、「卵を割ります」とは言わない。

「卵の殻を切っていきます」

そんなところから料理が始まる。

でも、ここでひとつ気になることがある。

そんなに硬い殻を、ひよこはどうやって破るのだろう。

ひよこは生まれたときから強い

卵の中で育ったひよこは、最後には自分で殻を破って外へ出る。

普通の卵なら、くちばしでコツコツつついていればいい。

でも、殻がチタンくらい硬かったら、そう簡単にはいかない。

ひよこが外に出るには、その硬い殻を破れるくらいの力が必要になる。

そう考えると、この世界のひよこは、生まれたときからかなり強いくちばしと首を持っていそうだ。

卵の中から、コン、コン、とつつく。

まだ割れない。

もう一度つつく。

それでも割れない。

さらに力を入れる。

やっと殻にひびが入る。

何度もつついて、少しずつひびを広げていく。

そして最後に、殻が大きく割れる。

中から出てくるのは、いつものふわふわしたひよこ。

見た目はかわいい。

でも、そのくちばしだけは、かなり強い。

生まれたばかりなのに、硬いものを壊せる。

ひよこを手のひらに乗せて、「かわいいなあ」と眺めていたら、そのひよこが手元の金属をつついている。

ちょっと怖い。

ひよこを育てる場所が大変になる

そうなると、ひよこを育てる場所も普通ではいられない。

養鶏場では、一度にたくさんのひよこが生まれる。

何百羽、何千羽というひよこが、一斉に卵から出てくる。

そして、みんな強いくちばしを持っている。

ひよこは何でもつつく。

えさをつつく。

床をつつく。

壁をつつく。

目の前にあるものを、とりあえずくちばしで確かめる。

普通のひよこなら問題にならないことでも、この世界では設備が壊れてしまう。

仕切りの板をつつく。

板に穴が開く。

柵をつつく。

柵が曲がる。

養鶏場では、ひよこを育てるための設備より先に、「ひよこに壊されない設備」を考えるようになる。

ひよこが生まれる部屋なのに、だんだん頑丈な工場みたいになっていく。

大人になったらもっと大変

ひよこが大きくなれば、くちばしも大きくなる。

生まれたときから硬い卵を破っていたのだから、大人のにわとりはもっと強い。

木の板をつつけば傷がつく。

古い柵なら壊れる。

薄い金属の板にもへこみができる。

そうなると、にわとりを飼う場所には丈夫な材料が必要になる。

木の柵は使いにくい。

普通の金あみも心配だ。

扉も簡単には壊されないものにする。

「にわとりを飼う」というだけなのに、飼育する場所がどんどん大げさになっていく。

しかも、にわとりは飛ぶことができる。

強いくちばしがあって、飛べて、走れる。

逃げ出されたら、なかなか大変な相手だ。

一羽逃げただけなのに

もし、そんなにわとりが一羽だけ逃げ出したらどうなるだろう。

普通のにわとりなら、庭や道路を走り回っていても、そこまで大きな騒ぎにはならない。

でも、この世界ではそうはいかない。

にわとりが木の柵の前で止まる。

つつく。

柵が壊れる。

さらに進む。

物置の扉をつつく。

扉にも穴が開く。

にわとりは、ただ前に進みたいだけだ。

でも、行く先にあるものをどんどん壊してしまう。

人間が追いかける。

にわとりは逃げる。

捕まえようとあみをかぶせる。

あみをつついて破る。

もう、にわとり一羽を捕まえるだけの話ではない。

頑丈な道具を持った人たちが集まってくる。

「にわとりが逃げた」という出来事が、ちょっとした事件になる。

キツネやヘビも困る

そして、にわとりが強くなったら困るのは人間だけではない。

野生の世界では、にわとりを食べる動物がいる。

たとえば、ヘビやキツネだ。

ヘビがにわとりに近づく。

にわとりが振り返る。

つつく。

ヘビが逃げる。

キツネが近づく。

にわとりが騒ぐ。

一羽だけではなく、周りのにわとりも集まってくる。

何羽ものにわとりに一斉につつかれたら、キツネだって簡単には手を出せない。

今まで「にわとりを食べればいい」と思っていた動物たちが、にわとりを見ると少し考えるようになる。

「あれはやめておこう」

そんな感じだ。

野生に出たにわとりが増えていく

さらに、飼われていたにわとりが逃げて、そのまま野生で暮らし始めたらどうだろう。

普通のにわとりなら、野生の中で生きていくのは大変だ。

でも、この世界のにわとりは、かなり事情が違う。

卵は簡単には壊れない。

敵にも立ち向かえる。

虫や植物を食べて生きていける。

群れで動けば、さらに強い。

逃げ出したにわとりの中には、そのまま野生で暮らすものも出てくる。

何羽かが生き残る。

そのにわとりが卵を産む。

そこからまた新しいにわとりが生まれる。

気づいたら、山の中に野生のにわとりがたくさんいる。

昔は人間の庭にいた鳥が、森の中を普通に歩いている。

しかも、かなり強い。

食べられるだけの鳥ではなくなる

そうなると、周りの生き物にも変化が出てくる。

にわとりは虫を食べる。

にわとりが増えれば、虫が減る。

虫が減れば、その虫を食べていた小さな動物も困る。

一方で、にわとりを食べていたキツネやヘビは、今までのようには食べられない。

これまで食べられる側だったにわとりが、今度はほかの動物とえさを取り合う側になる。

たとえば、森の中で同じ虫を食べている鳥がいたとする。

そこへ大量のにわとりがやってくる。

にわとりが虫を食べる。

その鳥のえさが減る。

鳥の数が減る。

すると、その鳥を食べていた動物にも影響が出る。

一羽のにわとりが強くなっただけなのに、ずいぶん遠くまで話がつながっていく。

人間にとっても、少し変な動物になる

こうなると、にわとりは「卵や肉をもらうための家畜」というだけではなくなる。

飼うには頑丈な施設が必要。

逃げたら捕まえるのが大変。

野生に出れば、簡単には食べられない。

畑に入ってくれば、作物を食べてしまう。

でも、虫も食べてくれる。

だから農家の中には、「畑でにわとりを放したら便利なのでは?」と考える人も出てくる。

実際に放してみる。

虫を食べてくれる。

これは助かる。

ところが、野菜も食べる。

土もつつく。

せっかく植えた苗まで掘り返す。

虫を食べてほしかっただけなのに、畑を好き放題歩き回っている。

結局、にわとりを放す場所と、入ってほしくない場所を分けるために、また頑丈な柵が必要になる。

最初は卵の話だった

最初は、ただ卵の殻が硬いだけだった。

卵が割れない。

料理がちょっと面倒になる。

それくらいの話に思える。

でも、その卵からひよこが生まれる。

硬い殻を破るために、ひよこは強い力を持っている。

そのひよこが大人になれば、強いにわとりになる。

強いにわとりを飼うには、頑丈な鶏舎が必要になる。

逃げ出せば、人間が捕まえるのに苦労する。

野生に出れば、キツネやヘビも簡単には手を出せない。

にわとりが増えれば、虫やほかの鳥にも影響が出る。

そして、いつの間にか、人間とにわとりの付き合い方まで変わっている。

朝になれば、にわとりが鳴く。

頑丈な鶏舎の中で、にわとりが歩き回っている。

巣には、簡単には割れない卵が並んでいる。

その卵の中では、ひよこが外へ出る準備をしている。

コン。

卵の内側から音がする。

コン、コン。

硬い殻に、少しずつひびが入っていく。

そして、やがて殻が割れる。

ふわふわのひよこが顔を出す。

生まれたばかりなのに、ものすごい力を持っている。

それを見た飼育員は、かわいいと思うより先に、ひとつ気にするかもしれない。

「この子、大人になったらどれくらい強くなるんだろう」

卵が硬くなっただけなのに、そこから先はまだまだ分からない。


※ この文章は空想です。現実の世界では、無理なことを試さないでください。
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